LILAS
森本 淳子 森本 淳子

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森本 淳子先生
北海道大学農学研究院教授

自分自身も学び続け、楽しみながら
研究室という一つの生態系を育んでいく

LILAS

Leaders for people with Innovation,
Liberty and AmbitionS.

フロントランナーとして活躍している女性リーダー(Leader)を紹介する女性研究者インタビューシリーズLILAS。リラはフランス語で札幌の花としても知られるライラック(Lilac)を意味します。 インタビューの内容から着想を得た植物のアレンジメントとともに、植物の持つ力強さやしなやかさ、多様性などのメッセージを媒介させながら、オリジナルインタビューシリーズとして発信していきます。

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第八回は農学研究院の森本淳子さん。「単身子連れ赴任」という形で北大に着任した森本さん。講師、准教授時代を経て、2024年に研究室を主宰する教授となりました。子育て経験を活かし、自身の研究室を一つの「生態系」に見立て、学生たちが主体的に助け合い高め合う独自のチームマネジメントを実践しています。20名を超える学生を抱える大所帯をどのように導き、次世代へバトンを繋ごうとしているのか、その工夫と思いを伺いました。

研究室という一つの「チーム」としての力をどう伸ばしていくか

研究室を運営するうえで、どのような難しさがありましたか

2006年に講師として北大に来た当初は、教授がトップを務める研究室の一員でした。2024年にその教授が退職され、研究室を引き継ぐ形で教授に就任したので、実はまだ主宰者となってから2年ほどしか経っていません。ただ、准教授時代と今とでは、心持ちが全く違います。以前は「うまくいかなくてもしょうがない」とどこかで思っていた部分がありましたが、今は最後の責任を自分が負うことになります。学生たち全員が健康に、無事に卒論や修論を書き上げられるよう、より良い環境を整えなければならないという責任を強く感じています。着任時に7名だった学生も、現在は21名の大所帯となりました。個々の研究をサポートするだけでなく、研究室という一つの「チーム」としての力をどう伸ばしていくか、試行錯誤の毎日です。

研究室では、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか

私たちの研究室は山や湿地などの野外調査が多く、ヒグマへの対策や気象の変化など、常に危険が伴います。そこで、学生たちが自ら考え出し、改良を重ねてきたのが「札幌本部」という危機管理システムです。調査に行く学生はWeb上のラボのカレンダーに「誰が、いつ、どこに行くか」を登録し、札幌に残る学生が「管理者」となって現地の気象警報やクマの出没情報などを収集し、現場の調査者に伝えます。調査開始と終了の報告をこの「本部」が受けることで、情報は私にもスムーズに共有されます。これは私が指示したわけではなく、学生たちが主体的に構築した仕組みです。

また、研究面だけでなくラボ運営に関しても、発注が必要になりそうな物品・機器のリストアップやメンテナンス、ホームページの更新、掃除など、さまざまな場面で役割分担をしています。こうした取り組みを通して、学生たちの中に「自分たちが研究室を動かしている」という意識が育っていると感じます。

そうした仕組みづくりの背景には、どのようなお考えがあるのでしょうか

私が特に重視しているのは、学生一人ひとりが安心して行動し、研究室を「自分たちの場」として主体的に関わることです。本学の学生は非常に優秀で、問題意識もはっきりしています。ただし、個人で研鑽することには慣れていても、他者と対話して知識や技術をシェアし、共に成長する経験は必ずしも多くありません。放っておくと、個々が独立して頑張る「戦国時代」のような状況になり、研究室としての相乗効果が生まれにくくなってしまいます。

そこで意識してきたのが、「一人では研究が完結しない」仕組みづくりです。野外調査では安全管理の観点から必ず二人以上で行動することをルールにし、論文執筆においても、教員に見せる前の「ゼロ稿」の段階で、まずは学生同士で読み合い、意見を交わすプロセスを設けています。

こうした姿勢や、ラボ運営に学生が主体的に関わる文化が根付いた背景には、前の教授である中村太士先生の存在が大きいと感じています。中村先生が長い時間をかけて下地をつくってくださっていたからこそ、現在、これらの仕組みが無理なく機能しているのだと思います。

他人を尊重し、自分自身の個性を伸ばすこと

ダイバーシティへの考えをお聞かせください

若い頃、北米に短期留学したり、夫の留学に同行して現地の大学で研究したりした経験があります。アメリカは多様性そのものの国で、人の数だけ考え方が違うということを肌で感じました。そこでは、自己主張をしっかりする一方で、他人の主張も等しく尊重する風土がありました。DEIの本質とは、まさにこの「他人を尊重し、自分自身の個性を伸ばすこと」にあると考えています。

私は、ある分野の能力が高く、別の分野が苦手な学生がいても、他の学生がカバーすればいいと考えています。先行研究をまとめるのが上手な学生もいれば、新しい解析法の情報を見つけるのが上手な学生もいます。言語も同じだと考えています。現在、私の研究室にも1名留学生がいますが、学生同士、AIツールも柔軟に活用しながら、互いにコミュニケーションが取れるよう工夫を凝らしてくれています。ゼミにおいても「全員が参加できる場にしたい」という私の方針を学生たちがしっかりと理解し、誰も取り残されないよう各々が主体的に寄り添ってくれています。
このように個々の凸凹を認め合い、それぞれの良さを最大限に発揮して研究室全体で成長していくことが理想です。私自身も、彼らの得意な部分に助けられていると感じています。

育児と研究の両立はどのようにされていましたか

北大に着任した時は1歳半の子どもを連れての「単身子連れ赴任」で、夫は本州で仕事をしていました。当時は本当にハードでしたね。急な発熱で仕事が進まないもどかしさやストレスは、今でも鮮明に覚えています。宿泊を伴う実習に、わざわざ実母を本州から呼んで子どもの世話をしてもらいながら参加したこともありました。学会先で子どもがおたふく風邪になり飛行機で一緒に帰れなくなったり(実家に預けて切り抜けました)、逆に私が学会先で発熱し宿で寝込んでいたり(子どもは夫と観光)、このようなハプニングはたくさんありました。でも、こうした経験をしたことで、多少のトラブルには動じない楽観的な心構えが身につきました。子育てで得た忍耐や新たな視点は、今の教育や研究室運営に確実に活きています。

そのような困難な時期に、支えとなった存在はありましたか

農学部教員としての先輩であり、当時の女性研究者支援室(現DEI推進本部)室長だった有賀早苗先生の存在は非常に大きかったです。有賀先生は「私が農学部初の女性教授なんておかしいわよね」とおっしゃりながら、病児保育のシステムや、研究補助員を雇うための人材支援制度を次々と立ち上げてくださいました。私にとって支援室はまさに駆け込み寺のような存在で、それらの制度をフル活用させていただきました。身近にロールモデルとなる女性教授がいたことは、大きな安心感に繋がりました。

現在は、育児や介護だけでなく、教員自身が闘病しながらでも教育や研究を継続できる環境づくりに、組織運営の面から貢献したいと考えています。すでにある制度をより柔軟に運用したり、大学外の組織で機能している仕組みを応用して導入するなど、個人を組織的にサポートするシステムを拡充できるように貢献することが私の目標です。

若い人たちが未来に希望を持てる環境を

ロールモデルのような存在はいますか

教育者として最も憧れ、目標としているのはチンパンジー研究で有名な動物行動学者のジェーン・グドールさんです。彼女は専門領域にとどまらず、世界中で講演を行い、若い人たちに未来への希望を伝え続けてきました。著書の『希望の教室』にもあるように、「若い人たちが未来に希望を持てる環境を作りたい」という彼女の信念には、非常に強く共感します。

私が小学校での読み聞かせやアウトリーチ活動を大切にしているのも、その影響が大きいかもしれません。かつて読み聞かせに本に出てくるどんぐりを持参して教室に置いていったことがありました。後日、どんぐりから芽が出たことに気づいた子どもたちが「どんぐりが生きてる!」と感動してくれたことがありました。こうした小さな体験が、いつか教科書で学ぶ知識と結びつき、学びを深めるきっかけになればと願っています。グドールさんのように、次世代が未来に希望を持てるような環境を、研究と教育の両面から支えていきたいのです。

健康であり、学び続けることを楽しむ

研究分野、社会への貢献についてお聞かせください

生態系管理学とは、自然を人間の思い通りにコントロールするのではなく、自然のプロセスを理解し、その力を活かして次世代に引き継ぐための学問です。分野によらずサイエンスは「視覚」情報に基づいて発展してきましたが、将来的には「音」や「香り」といったその他の感覚で捉える情報も活用した生態系管理ができたらいいなと考えています。例えばサウンド・エコロジーという分野では、鳥や虫の鳴き声をAIで解析する技術が発展しています。また、森によって異なる「香り」が、森林の健全度や人間の居心地の良さとどう繋がっているのか、未開発な領域に興味があります。究極的には、私たちの研究が社会課題の解決に繋がることを期待し、未来に希望を持てるような科学を追求することが、私の生涯のミッションだと思っています。

そのためには、私自身が健康であり、学び続けることを楽しむということが重要だと考えています。講義や研究指導で情報のアウトプットが多くなりがちですが、良いアウトプットのためにはインプットが大事です。これからも研究を楽しみ続けるために、自分から新しい情報や環境に意識的にリーチしていきたいと思っています。

「改善の種」に気付ける力が、
組織を良く変えるエネルギーに

最後に、上位職を目指す若手研究者の方々へメッセージをお願いします。

ぜひ「自然体でいてください」と伝えたいです。私自身、最初から教授を目指していたわけではなく、好きな研究を続けてきた結果、いつの間にかここにいたという感覚です。今の体制や上の世代に対して、葛藤や「もっとこうすればいいのに」という不満を感じているのなら、それは素晴らしいことです。「改善の種」に気づける力が、自分が上位職になった時に組織をより良く変えていくためのエネルギーになります。言われたことに満足するのではなく、自分なりの理想を持っている人こそ、上位職に行くべきだと思います。チャンスが来た時にそれを実現できるよう、自分の興味と能力を信じて、気負わずに一歩を踏み出してほしいです。私自身も、これからも学び続け、楽しみながら研究室という一つの生態系を育んでいきたいと思っています。

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Library

心理学の視点から「幸せとは何か」を説いた一冊です。単なる精神論ではなく「感謝する」「運動する」といった具体的な実践方法が紹介されています。競争の激しい社会の中で、どうすれば幸せを感じながら進んでいけるか。心に余裕がなくなった時、ふと手に取ってどこからでも読める、私にとって大切なお守りのような本です。

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Plants

学生さんたちから先生に例えられた樹木の花と葉。なんて素敵なんだろうと思いました。どちらも大木となり美しい花と葉をつけます。そこから木蓮(モクレン)と朴木(ホオノキ)を選びました。

ニシキモクレン

学名:Magnoria soulangeana 科名・属名:モクレン科モクレン属

 

ホオノキの葉

学名:Magnoria obrata 科名・属名:モクレン科モクレン属

 

LILASは北海道大学創基150周年事業です。北海道大学は2026年に創基150周年を迎えます。