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- 小川 美香子先生
- 北海道大学薬学研究院教授
自分でガラスの天井をつくらずに、
やりたいことがあれば挑戦してほしい。
LILAS
Leaders for people with Innovation,
Liberty and AmbitionS.
フロントランナーとして活躍している女性リーダー(Leader)を紹介する女性研究者インタビューシリーズLILAS。リラはフランス語で札幌の花としても知られるライラック(Lilac)を意味します。 インタビューの内容から着想を得た植物のアレンジメントとともに、植物の持つ力強さやしなやかさ、多様性などのメッセージを媒介させながら、オリジナルインタビューシリーズとして発信していきます。
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第七回は薬学研究院の小川美香子さん。
小川さんは、分子イメージングの研究を通して、病気の理解や治療に役立つ新たな可能性を探っています。
教授として研究室を率いるようになってからは、資金の確保や人材育成など、苦労もありましたが、それでも「研究で人の命を一つでも救いたい」という思いを胸に、日々挑戦を続けています。
研究者として、そしてチームを導くリーダーとしての思いを伺いました。
研究室を運営するということは、
中小企業の社長のようなもの
研究室を運営するうえで、どのような困難がありましたか
北大に着任してはじめて研究室を持ちました。それまでは准教授で、いわゆるナンバー2でした。教授が責任を取ってくださる立場でしたので、今振り返ると、あの頃が一番自由に研究できていた時期だったように思います。自分のことに集中できて、羽ばたいていた感じがありましたね。自分が責任を持つ立場になってみて初めて、研究室運営というのはこんなに大変なんだと実感しました。
研究室を運営するということは、中小企業の社長のようなものなんです。資金を獲得し、その中で成果を出し、人を育て、さらに次の資金につなげていく。資金繰りが滞ることが一番怖くて、常にお金のことを考えてしまいます。実際、教授になってからは「研究のことよりもお金のこと」という感覚になりました。これは他の大学の教授に話しても「みんなそうだよ」と言われるので、やはりそういうものなの
でしょうね。
また、教授になったときに先輩から「教授は孤独だよ」と言われたのですが、本当にその通りだと感じました。准教授であれば教授に相談できますが、教授になると上に相談する人がいない。分野が近いと話しにくいこともありますし、身近な人には話せないこともある。相談できる相手がいないという意味での「孤独」を、着任してすぐに実感しました。
研究室を出ていったスタッフや学生たちが
幸せになってほしい
学生やスタッフのマネジメントについてはいかがですか
スタッフの数は多くないので、みなさんに頑張ってもらう必要があります。もちろん人間ですからお互いに思うところはありますが、そこは大人同士としてうまくやっていくしかないですね。ただ、若い世代に対しては昭和的な感覚では通用しませんし、「どこまで言っていいのか」を常に考えています。
学生については、研究そのものよりも、まず自律した生活を送り、社会で生きる力を育てることが大事だと思っています。社会に出れば誰も守ってくれないわけですから。そうして、この研究室を出ていったスタッフや学生たちが幸せになってほしいと思っています。
指導スタイルについてお聞かせください
私はかなりの放任主義です。研究はやりたいからやるものであって、押しつけられてやるものではないと思っています。研究に必要な環境は整えますが、それ以上は学生自身に任せています。
私自身も学生の頃、こっそり実験して思いがけず結果が出たときの喜びを知りました。ですから、学生にもそういう経験をしてほしい。たとえ失敗しても、学生時代にしかできない挑戦があります。研究室にいる間に、失敗も含めて自分の力で試行錯誤することが、研究者としての大きな財産になると思います。
初めからバランスの取れた環境を整えることが重要
ダイバーシティへのお考えをお聞かせください
研究をするうえで性別や国籍を意識しなければならない環境はおかしいと思っています。全員が男性でも女性でも違和感があるでしょう。だからこそ、初めからバランスの取れた環境を整えることが重要です。
ただ、薬学部全体を見ると教授会はほとんど男性です。女性の助教もまだまだ少ない。男性ばかりの集団に違和感を覚えない先生方も多いですが、それ自体が問題なのだと思います。もっと自然に女性や外国人が加わっている環境をつくらなければ、若い人たちが入ってきにくいと思いますね。
研究室では、人数が少ないからこそ、男性ばかりの集団にならないようにも意識しています。人間は半分が女性なのですから、研究室も自然とそのくらいの比率である方が心地よいと思います。
これまでのキャリアの中で、ロールモデルとなった方はいらっしゃいますか
その時々に「こうなりたい」と思える方がいました。防衛医科大学の石原美弥先生はとても尊敬している先生です。とても優秀で周囲を動かす力があり、時には嫌がられることを恐れずに自分の意志を貫くことができる方です。女性は上に立つと強い印象を持たれることがありますが、それを恐れずに正しいと思うことを実行されているのが素晴らしいと思います。
また、北大の長谷山美紀先生もロールモデルの一人です。心配りのある優しい先生ですが、非常に的確に判断され、研究費の規模や影響力も圧倒的です。
女性が強い意志を持つと「怖い」とレッテルを貼られるのは残念ですが、そういう評価に自分で縛られないことが大切だと感じています。
研究で「人の命を一つでも救いたい」
研究や社会への貢献について教えてください
私が研究を始めた頃に立ち上がった「分子イメージング」という分野は、今や成熟期を迎えています。成熟した分野は新しいものが生まれにくく、やや下火になりつつあります。だからこそ、次のステップである「ネクスト分子イメージング」を考える必要があると思っています。これは私一人でできることではなく、世界的な動きとして取り組むべき課題だと考えています。
また、研究で「人の命を一つでも救いたい」と思っています。私という一人の人間が、自分の研究で誰か一人でも命を救えたら、自分の存在を肯定できると思うのです。少し極端かもしれませんが、そんな思いで研究を続けています。
大学への貢献についてはどのようにお考えですか
総長補佐をお引き受けしたのは、寶金総長の考え方に大きな反対がなかったからです。「この方の補佐ならば」と思えました。最初は社会連携を担当しましたが、その後、研究戦略室の仕事に関わるようになりました。研究のど真ん中に携わる立場になってみると、やはり北大の恵まれた研究環境をもっと生かさなければと強く感じます。
北大は水産学部以外のすべての学部が一箇所に集まっているので、共同研究や融合研究が非常にやりやすい環境にあります。これは他の大学にはない大きな強みです。この環境を生かして、北大独自の研究を生み出すためのサポート体制を作っていくことが重要だと思います。
ただし、結局は「お金」がなければ何もできません。研究費の確保が卵が先か鶏が先かという状態で、資金の問題が常に立ちはだかります。とはいえ、他大学の後追いをしていては北大が勝てるはずがない。むしろ新しいアイデアを先に打ち出し、独自性を発揮していく執行部であってほしいと思いますし、私も貢献していきたいと思っています。
上に行くことで初めて見える景色もある
上位職を目指す若手研究者へのメッセージをお願いします
女性研究者には、自分でガラスの天井をつくらないでほしいと思います。女性は謙虚で、自分で限界を決めてしまうことが多いですが「私には無理」と言わずに、やりたいことがあるなら挑戦してほしいです。上に行くことで初めて見える景色もあります。
もちろん孤軍奮闘していると「女性は怖い」と言われることもあるでしょう。でも女性の味方は女性です。周りに女性がいなくても他の分野の女性研究者とつながることもできますし、私もそのような仲間に助けられています。意外と大丈夫ですから、恐れずに前に進んでほしいと思います。
LILAS
Library
独身や子どもを持たない女性をテーマにした古いエッセイですが、今読んでも新鮮に感じます。裏を返せば、日本があまり変わっていないということでもあるのですが…。女性だけでなく男性にもぜひ読んでもらいたい一冊です。
LILAS
Plants
アジサイやノリウツギの様に花色を変え枯れた後も枝にとどまるような、トゲもありつつ長く咲くことができる強さのために。
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アジサイ
学名:Hydrangea macrophylla 科名・属名:アジサイ科アジサイ属
- 日本原産のアジサイをヨーロッパで品種改良されたものをハイドランジア、西洋アジサイという。
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ノリウツギ
学名:Hydrangea paniculata 科名・属名:アジサイ科アジサイ属
- 北海道では「サビタ」の名前で呼ばれることが多い。日本全国、樺太、中国まで見られる。
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ジニア
学名:Zinnia 科名・属名:キク科ヒャクニチソウ属
- 「百日草」の名前で知られる。開花期も長く切花としても多種にわたる。
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バラのトゲ
LILASは北海道大学創基150周年事業です。北海道大学は2026年に創基150周年を迎えます。