DEI推進本部では、文部科学省科学技術人材育成費補助事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(女性リーダー育成型)」の一環として、女性の学生及び大学院生が自身のキャリア形成について考える機会を提供するとともに、女性の博士課程への進学を後押しすることを目的に実施されるセミナー等の開催に対し、必要な経費の一部を支援する、「女性の学生及び大学院生向けキャリアイベント開催支援」を行っております。
この支援により、2024年11月8日、文学研究院によるセミナー「Never Too Late: 自分の可能性を切り開く—グローバル研究者と考える多様なキャリア—」が開催されました。
以下、レポートを紹介させていただきます。
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【実施した内容】
本イベントではTrinity College Dublin(アイルランド)のMarie Skłodowska-Curie Action (MSCA)リサーチフェロー、明石元子講師を招聘し、海外でのご経験やキャリア形成の助言についてお話しいただいた。明石講師は海外で30年以上にわたる多様なキャリアを築いており、ファッション・デザイナー(英国、インド)や飲食店経営(カンボジア)、通訳・翻訳者(英国、日本、インド、イタリア等)を経てMA in Applied Translation Studies、PhD in Translation Studiesを取得、その後現在のアカデミックポストに就いている。
今回のセミナーでは、講師のキャリアとアカデミックの道に進むまでに至るストーリー、その中でどのような困難があり、いかにして解決に至ったのか、そして参加者を含め自身のキャリアを考える上でのアドバイスについてお話しいただいた。講師のさまざまなチャンスに果敢にチャレンジしてきたエピソードが紹介されるなか、「助けてくれた人たちがいなかったら、今の私はここにいない」という言葉にも象徴されるように、「人とのつながりを大事にすること」、「オープンマインドな姿勢を持つこと」の大切さが強調される内容となった。
ディスカッションセッションでは、参加者から「選択を迫られた際に優先するべきことやヒントについて」、「語学学習のアドバイス」、「今までさまざまな仕事をしてきた中で、アカデミックという職業を他のキャリアと比較してどう思うか」、など具体的な質問が飛び交い、講師はそれぞれに回答し、時にはユーモアを交えながら実践的な助言を提供した。唯一無二のバックグラウンドを持つ講師の話は参加者にとっても刺激になったことが伺える。セミナーは盛況のうちに進み、参加者がキャリア形成を考える上での貴重な学びの場となった。
【成果】
参加者からは、明石講師の海外で多様な経験を経たのちにアカデミックキャリアに至るまでのストーリーには大いに刺激を受けた、励みになったという声が多く上がった。例えば、「セミナータイトルの ‘Never Too Late’にもあるように、自分の好きなことはいつでもしていいし、いつでもできるということに励まされた」、という声や、「アカデミアで過ごす中で自分の中で内面化されていた「こうあるべき研究者像の呪縛」という観念に気づき、それを見直すとともに、自分が目指したい研究者像を再考するきっかけになった」という感想も上がった。オンラインでは海外からの参加者も複数見られ、女性(ここでいう女性とは、何らかの形で『女性』の経験を持つ人を指します)のグローバル・キャリア、そしてアカデミック・キャリアを志すことについての注目の高さが伺えた。視野を広く持つこと、人との出会いを大切にすることなど今回共有された講師のマインドセットが参加者の今後のキャリア選択の上で有益な手がかりになることが期待される。
その一方で、女性のキャリア形成にまつわる課題は構造、文化などに起因する複雑な課題であることがより浮き彫りになったとも言える。例えば、ディスカッションセッションでもあげられた、「アカデミアはリスキーなキャリア選択では?」という視点に対しては、「女性が大学院へ進学することや研究者を志すことが現状難しい決断となってしまっている」ということ、「大学側がさまざまなバックグラウンドを持つ人がいることを認識し、支援体制をもっと充実させることがキーなのではないだろうか」、という指摘もあがった。
とりわけアカデミックキャリアへ進む女性への偏見の是正、コミュニティ内での安全性確保までの道のりはほど遠く、サポート体制など制度面での改善はもちろん、コミュニティ構成員、社会においてマジョリティ側とされているひとりひとりの意識の変化も必須である。ただでさえ研究職が「リスキーなキャリア選択」とされているのに加え、女性にとってはより「難しい決断」、「リスキーな選択」となってしまっているのは、個人の素養よりも社会的な要因に大きく起因し、それに関する高い理解が参加者の声からも伺える。ゆえに、本イベントは参加者自身が個人的な問題のみならず、構造的な問題にも関心を向けることに寄与したといえるだろう。この課題に自覚的になることは、男性参加者にも求められることである。オーガナイザー側も今回のイベントを通じて、構造的な課題により自覚的になったことに加え、動機づけや意思決定と緊密に結びついていることを強く感じた。
いずれにせよ、女性のキャリア形成の選択肢の一つとして、アカデミック・キャリアが「他と比較してもリスクではない選択肢」としてあげられるような対策が急務であるのは間違いない。「自分には関係ない」と思っているような人こそ、真剣に捉えなければならない課題であろう。