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女性研究者が増えるために

北海道大学大学院 法学研究科 准教授 馬場 香織

全国ダイバーシティネットワークOPENeD
2022年11月4日 掲載記事
※役職、記事内容は掲載当時のものです

 

私は比較政治・メキシコ政治が専門の研究者です。博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員PDを経て(独)日本貿易振興機構アジア経済研究所に入所し、2016年から北海道大学に勤めています。これまで、メキシコをはじめとするラテンアメリカの政軍関係、社会福祉政策、政党制、麻薬紛争など、各国の国内政治の諸問題について研究してきました。近年では、女性の政治参加にも関心をもって勉強しています。

女性の政治参加が進んでいる国というと、フィンランドやアイスランドなど北欧の国々が思い浮かびますが、近年ではアフリカやラテンアメリカなどの発展途上国のなかにも、女性議員比率のランキングで上位に入る国が増えました。メキシコもそうした国のひとつで、下院の女性議員比率を対象とするランキングでは世界4位の50%、上院でも女性議員比率49.2%と、ほぼ男女同数を達成しています(Inter-Parliamentary Unionのデータを参照)。

多くの国で女性議員比率が増えた要因として、候補者や議席の一定割合を女性または男性に割り当てるクオータ制の導入があげられます。実効性のある法律が導入されるまでには紆余曲折がありますが、法律の効果によって女性議員が増え、女性のさらなる政治参画を促すような法改正につながり、その効果によってまた増える。メキシコでは2019年に「すべてに男女同数(パリテ)」と呼ばれる改革が行われ、国と地方のあらゆるレベルにおいて、立法府だけでなく行政府、司法府を含めた公的機関にパリテが適用されることとなりました。現時点で十分に達成されているわけではありませんが、専門の公的機関が進捗を監視し、勧告や助言を行っています。

もっとも、クオータ制と同時に、男女ともに家庭と仕事との両立を促すような環境整備や、社会に存在するジェンダー・バイアスの解消を進めることが大事です。その一方で、女性の数が増えることで環境整備が進み、社会の意識が変化することもあります。両方を同時に進めて好循環を生み出すことが目指されているといえます。

大学などの研究機関でも同じことがいえるでしょう。女性研究者が増えることで環境が変わり、さらに女性研究者が増える好循環が生まれうると思います。したがって、研究職の公募で「女性優先」や「女性限定」の枠が以前に比べて広がっていることは、アファーマティブ・アクションとして評価できると考えます。ただ、分野にもよりますが、日本では大学院進学率に男女間の差が依然大きく、女性研究者を採用したくてもプールが少ないという問題もありそうです。女子学生の大学院進学率を上げるために、女性議員の問題以上に環境整備や意識の変化を促す必要があるように思います。

現在の日本では、文系・理系問わず安定した研究職ポストを得ることは難しく、また大学院生が研究を続けるための支援体制も十分であるとはいえません。研究職は狭き門であるうえ、大学院進学にはお金がかかる。大学院やポスドクの時期は結婚や出産のようなライフイベントと重なることも多く、私自身も大学院生のときに出産・子育てを経験しました。学振の特別研究員を中断すると研究費を使うことができず、かといってフルで研究をすることもできないので、制度の難しさを感じました。大学院在学中に、修士課程から貸与を受けてきた奨学金の返済が始まったのも大きな負担でした。また、当時は大学構内に保育園が新設されていた時期でしたが、授乳・搾乳やおむつ替えができるようなスペースはなく、育児中の学生のことは想定されていない印象を受けました。

他方で自身の経験から、研究職が子育てと両立しやすい職業であることは、もっと知られてよいのではないかと考えてきました。博士論文を書いていた頃は、まだ常勤職を得ておらず不安や焦りもありましたが、研究の進め方や時間配分を基本的に自分の裁量で決めることができたことは、子育てとの両立にプラスだったと思います。常勤職に就いてからは、裁量労働制が適用されていることや、近年ではオンラインツールが広く活用されるようになったことで、家庭と仕事の切り替えを自分のペースで行うことができています。

これから研究の道を目指す女性には、研究職が女性に向かないことはなく、むしろ働きやすい職種である可能性をお伝えしたいです。他方で、大学院やポスドクの時期はライフイベントとの両立への不安が生じやすく、国と研究・教育機関には支援拡充や環境整備がいっそう求められています。男女ともに若手研究者を大事にする取り組みが急務であり、私自身もよい変化に向けて働いていきたいです。

元記事)
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2022年11月4日掲載 馬場 香織「女性研究者が増えるために」
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