第5回 ライフ・キャリアデザイン-現代の生殖医療
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就職活動の時、自分のキャリアやライフプランを含めた将来について考えたことがあったの。大学を卒業してからしばらく働いてみたいし、両親とは離れた暮らしを続けている可能性もあるから、結婚して子供ができて里帰り出産だとしたら何歳がいいかとか色々考えた。
男性は自分の子供ができても体調に変化がある訳ではないけど、自分の家族を意識することでの経済面の責任感を想像することはあるかなぁ。
まっちゃんもしょうくんも、今だけでなく、近い未来の自分を意識していると何か選択する時の参考にはなるかもしれないね。
<年齢と妊娠-月経がある年代=妊娠適齢期 ということではない>
まず、妊娠するためには卵子が必要(第4回)だけど、卵子の素となる細胞は生まれる前に一生分作られて、生まれた後に増えることはないんだ。卵巣の中では、排卵にむけて多数の卵子の素の細胞が呼び出されて、そのうちの1個が選択・成熟して排卵する。年齢を重ねると、卵子の数は減っていくことになる。そして、卵子自体も老化していき、染色体や遺伝子の異常がおこりやすくなる。結果として、受精しにくくなったり、妊娠が成立しても流産が多く起こったりする。
妊娠に適した時期は、ホルモンバランスが良く、子宮や卵巣の問題が少なく、心身、卵巣機能、卵細胞(卵子のもと)が元気な期間だ。その時期は一般的には25歳~35歳前後と言われている。
月経がある年代、いつでも同じ確率で妊娠できると思ってた。
<現代の医療 – 不妊治療とは?->
よく、“不妊”や“不妊治療”ってニュースや新聞で聞くけど、“不妊”ってどういうこと?
妊娠したいと思って避妊せずに性交をすれば、半年から1年で授かるとされるね。だから、はじめからあせる必要はないよ。一般的に、「1年間避妊なしに妊娠の成立をみない場合は不妊」とされているよ。しかし、女性が月経不順で排卵がなかったり、子宮内膜症などが合併していたりすると妊娠しにくいことが予想される。だから、そのような場合は、さっき話した定義を満たさなくても「不妊かもしれない」と考えて、病院で相談したほうがよいね。また、男女とも年齢が高くなると妊娠しにくくなるので、治療を先送りすることで治療成果が下がる可能性を考慮して、一定期間を待たないですぐに受診した方がよいこともあるよね。このように、カップルによってさまざま事情が異なるので「なかなか妊娠しない・子供がほしい」と思ったら、産婦人科で相談するのがよいね。
女性だけでいいの?
不妊原因には、女性側にも男性側にもあり得るので、パートナーといっしょに行くのが望ましいね。
やっぱり妊娠は希少で貴重だし、日ごろから自分の身体を気にかける必要があるんだ。その一歩として、自分の月経周期と基礎体温(第2回)を把握しておけたらいいね。
基礎体温によって、排卵の有無、月経周囲の長さ、高温相の長さなどがわかるので、診療に役立つよ。
うんうん。産婦人科に相談行くとどんなことをするの?
女性の不妊検査ではまず、基礎体温表をチェックしたり、婦人科的診察や超音波検査、女性ホルモンなどの分泌について検査していく。そして、子宮卵管造影を使ったりする。男性では、精液検査を行い泌尿器科的診察が必要に応じて行われるね。
女性、男性、両方の生殖機能の現状を把握するって感じかぁ。
検査で特定の病気が診断されれば、その治療を行なったうえで、状況に応じて不妊治療が行われる。特定の不妊原因がみられない場合には、身体への負担が少なく自然妊娠に近いものから行うことが多いよ。それが一般不妊治療と呼ばれる、タイミング法と人工授精。タイミング法は排卵のタイミングに合わせて性交を行うように指導するもので、人工受精は、排卵のタイミングに合わせて、調製・濃縮した精子を子宮内へ注射器で注入するものだよ。この方法だと、男性側の精子が少なめの場合でも一定数の精子を子宮へ届けることができる。少量の排卵誘発剤を併用することもあるよ。
タイミング法は聞いたことあるなあ。
<現代の医療 – 生殖補助医療->
一般の不妊治療で妊娠にいたらない場合に、生殖補助医療の出番になるんだ。現代は生殖補助医療が進んでいるから、これについても話して おくよ。
生殖補助医療って、よく聞く体外受精のこと?
そう、体外受精も含まれる。生殖補助医療は、卵子と精子、あるいは胚を体外で取り扱って治療 を行うんだ。実施する場合には、採卵、採精、体外受精(顕微授精)、胚培養、胚移植といったいろいろなステップが必要となるんだ。さらに凍結胚移植の場合には、胚凍結保存も必要だね。
なんだか急にいろんな言葉が出てきたね!
「体外受精・胚移植」は文字通り、卵と精子を体外で受精させる方法。卵巣から採取した卵と、精子を体外で受精発育させてから、子宮へ戻す治療だよ。そして、受精卵を凍結保存して適切な時期に融解して子宮に戻すのが「凍結融解胚移植法」だ。そして、精子の数がとても少ない人には、卵子の中まで精子を注入する方法を併用する。これが「顕微授精」というものなんだ。
採卵の時って、周期のたびに卵子を1個 取り出して受精にチャレンジするの?
必ずしもそうではないよ。体外受精の準備として、ホルモン剤で卵胞刺激を行い、複数個の卵子を発育させる。そして、その時できている卵子を複数個採卵するから、毎回採卵する作業をしなくてよくなっているんだ。受精卵は移植に適した時期まで培養される。移植する受精卵は原則1個であり、残りは凍結保存できるよ。
令和4年度から、 不妊治療の多くが保険適応になるような準備がされている。最新の情報に注目していきたいところだよね。
このステップが多い治療は、月経のスケジュールに合わせながら、検査や治療の日を決めたりするの?
仕事をしている場合は、不妊治療とのスケジュール調整が必要になる。
そして、採卵日に確実に卵子を得られるように検査やホルモン注射もスケジュールするから、ホルモン補充や治療スケジュールが仕事へ影響することもあるだろう。そして体調にも。
妊娠の希望は個人の自由で権利であると同時に、不妊治療や妊娠生活の中で一緒に過ごす家族や友人、職場の同僚とのコミュニケーションは無視できない。当事者も、周囲のみんなも自分事としてとらえて互いにフォローすることがみんなのリプロダクティブ・ヘルス/ライツには重要だ。
<自分のライフ・キャリアに思いをめぐらせてみる>
メディアで高齢出産のニュースが流れることもあるけれど、人は人、私は私なんだね。
パートナーと過ごしていく場合はパートナーとの話し合いや考えていることの共有も大切だ。
どんな生活(=ライフ)を送りたいか、そしてどんなキャリアを希望するか書き出してみたり、誰かに話してみると自分の希望がわかりやすくなることもあるだろうね。話したからって必ず実現しなければならないことではない。人の希望や考えは移り行くものだ。
私もまさかしょうくんがパートナーになるなんて思ってなかったしなぁ。
ぼくも喫茶店開けると思ってなかったもんなぁ。
自分の希望を考えておくことも、偶然に身を任せることも大切ってことかな。
私の職場でロールモデル紹介オンライン配信(Knit a Network!研究者座談会)があるんだけど、人それぞれ色々な人生の出来事やキャリアの進み方があることを知ることができて、人生の歩み方はひとつじゃないんだって思えたよ。
人それぞれ背景や今の状況、そして希望がある。
喫茶店を開く時、職場を辞めるとき、色々な人にお世話になった。自分の希望を叶えるためには、他者の理解や協力が必要だ。そして自分が他者になる時もあることを意識させられたよ。
喫茶店始めて、まっちゃんとしょうくん含めて色々なお話を聞く中で、本当に多様な人生やライフスタイル、考え方があることを実感する。
私こそ、えび先生やかにさんとお話するなかでリプロダクティブ・ヘルス/ライツのような新しい知識や、気づきをもらう中でぼやけていた私のキャリアやライフプランも輪郭が見えてきたよ。
少しは、まっちゃん、しょうくんのこれからの人生プランに参考になったかな?
うん!
はい!
人生プランだけじゃなくて、今の職場や家族と暮らしていくことの参考にもなったよ。
うん。自分のこともだけど、みんなそれぞれの健康と選択があることを意識していたいと思った。
そうね。みんなそれぞれのライフプランやキャリアプランがあるものね。
うん。まずは、自分のプランを思い描くこと、大切だね!また悩んだり教えてほしいことがあったら相談していいですか?
もちろん!待っているよ^^
おしまい。
(監修:北海道大学大学院 保健科学研究院 教授 蝦名 康彦)