北海道大学大学院 薬学研究院 准教授 黒木 喜美子
2022年10月21日 掲載記事
※役職、記事内容は掲載当時のものです
女性支援からダイバーシティ推進へと言葉は変わりつつあるものの、まだ女性活躍推進は大きな課題であり、女性比率というのが研究の場以外でも数値化されることが多くなったと感じています。そのため、あまり当事者としての自覚がなかった私も、このように”女性研究者”や”働く女性”という枠組みで発信する機会をいただくことで、自分が置かれている立場と改めて向き合う時間を得ています。
私は、ヒトの疾患に関する研究をしたいと大学院に進学し、自己免疫疾患を対象とした疾患関連研究を行ないました。当時はホームページを作成している研究室や大学院説明会の情報を頼りに、電話やメールでアポを取り、研究室見学に伺う時代でした。結果、数か所しか訪問できなかったにも関わらず、そのうちの1人の先生が、学部生だった私の話に時間を割いて下さった上に、「ヒトの疾患や遺伝に興味があるのだったらこの研究室を訪ねてみなさい」と進学した研究室へと導いて下さったのは、今思えばとても幸運なことでした。おかげで、大学院時代辛いこともあったと思うのですが、楽しい思い出ばかり記憶に残り、とても濃い5年間を過ごせたと思います。その後、また幸運なことに、指導教官の紹介により、博士論文研究で明らかにした疾患関連遺伝子多型のタンパク質機能や構造を知りたいという希望を、現所属研究室教授の下ポスドクとして実現できることとなりました。周囲の人が、次の場へ導いてくれるという流れで、現在も遺伝的多様性という観点からタンパク質研究を継続しています。
プライベートと仕事の両立という意味では、共倒れているのか、そこそこ頑張れているのか、現時点では判断つきません。もちろん長時間研究室に滞在し、バリバリ実験をしていた頃に比べると生活リズムは激変しました。研究のことを考える時間や読む論文数も減り、無力さを感じることももちろんあります。一方で、プライベートな時間に得るものも多く、一人では出会わなかったであろうコミュニティ、社会のしくみに触れ、持ったことのない感情が生まれ、考え方も仕事の進め方も良い方向に変化したと思います。全く軸の違う居場所を持つことで、うまく自分をリセットすることができ、バランスを取ることができているため、自分や家族にストレスがかからない範囲であれば、何でもやってみよう、引き受けてみようと考えるようになり、実際に何でも楽しむことができています。
私が学生の頃、第一線で活躍する著名な女性研究者には憧れるけれど、まだまだ遠い存在でした。誰にも負けないという確固たる意志と常に研究のことを考えることができる資質が必要なのだと思っていました。一方、私は優秀な学生では無かったし、何よりも研究を優先してきたわけでもありません。しかし、流れに身を任せ研究生活を続けてきて、今現在も研究成果や進捗に関しては思い描いていた通りとは言えませんが、子持ち女性研究者(教員)としてどうですか?と聞かれれば「楽しいよ!」と答えます。子育ても最初は不安ばかりで、へその緒がなかなか取れないとか、体重の増えが緩いとか何でも検索して試行錯誤の毎日でした。その後は、保育園と小学校&民間学童保育をフル活用し、信頼できる保育士さんや学童保育支援員さん達、お友達や保護者の皆さんとの出会いが私達家族にとって非常にかけがえのないものになっています。
これから研究者を志すみなさん、いろいろ悩むことも制限もあると思いますが、ぜひ欲張って一度飛び込んでみてほしいと思います。飛び込んでみれば、手を差し伸べてくれる人が必ずいます。超スーパーウーマンだから、理解のあるパートナーがいるから、何かを我慢したから、という付加要素が無くても可能な限り研究が続けられるような環境が徐々に整ってほしいと期待しています。そして、女性に限らない様々な立場の方へのダイバーシティ研究支援・推進環境が整い、誰もが自信をもって若手に「飛び込んでおいで!」といえる環境が整うよう願っています。
元記事)
全国ダイバーシティネットワークWebサイト OPENeD
→https://opened.network/
2022年10月21日掲載 黒木喜美子「欲張ってバランスよく楽しむ」
→https://opened.network/column/column-0066/