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キャリアとリプロダクティブ・ヘルス/ライツ両立支援コラム④-1

第4回 プレコンセプション・妊娠・出産と福利厚生制度

キャリアとリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて、
CAFEえびに集うメンバーと一緒に考えていきたいと思います。

えび先生 : CAFE EBIのマスター。
      産婦人科医からキャリアチェンジして念願の喫茶店を開業。
      “ワイフ”と呼ぶパートナーのかにさんやお客さんとの会話が楽しみ。
かにさん :CAFE EBIのキッチンリーダー。
      もともとは食とは全く関係ない分野の研究者だったが、
      美味しいごはんの提供をしたくてえびせんせいとキャリアチェンジ。
まっちゃん:CAFE EBIの常連客。仕事はラボで研究員。しょうくんがパートナー。
      最近、同級生のライフイベントの報告が多い。
      ライフ・キャリアプランを意識している。
しょうくん:CAFE EBIの常連客。仕事はラボで研究員。まっちゃんがパートナー。
      えびせんせいからリプロダクティブ・ヘルス/ライツという考え方を知り
      勉強中。

※登場人物は全て架空の人物です。
 

Take home message

  • 自分に起こりえる体の変化を知っておこう。
  • 健康に胎児を育むには、母体だけでなく周囲の協力が大切。
  • 妊娠も周囲の協力も当たり前のことではなく、お腹にいる赤ちゃん含めてみんなが少しずつ調整していることを忘れずに。
  • 妊娠中でも自分らしい過ごしかたを選択するための福利厚生制度
  • 自分が働く場所の福利厚生制度を調べてみよう。
  • 新しい命について考えてみよう。
  • TOPIC

  • 妊娠のしくみ
  • 安心安全なマタニティライフのために、知っておきたいこと
    つわり、妊娠悪阻(にんしんおそ)/安定期/早産/妊娠高血圧症候群/妊婦貧血/出産、そして産後のこと/妊娠中のマイナートラブル
  • プレコンセプションケア
  • 女性労働基準規則
  • 妊娠・出産・子育てと仕事の両立
  • 今日、職場の後輩が妊娠したって報告があったの。少し前から後輩から妊娠したことは聞いてたんだけど、まだ何があるかわからないからって職場でも一部の人にしか話していなかったらしいの。後輩は気を使われることを嫌がっていたなぁ。そうは言っても、私たちの職場は実験している時間が多いから、安心安全な妊娠期と仕事のバランスというか・・・、どんな実験ならお願いしても大丈夫か、どんなことは避けなければならないのか、ちゃんと考えないといけないと思って、最近考えてる。

    最近パートナーが出産した先輩から、妊娠・出産を含めたライフイベントの時に利用できる福利厚生制度は当事者になる前でも予定がなくても目を通しておくことがおすすめって言われた。確かに、まっちゃんみたいに同僚や先輩、後輩が当事者になることもあるから、大事だよね?

    そうだね、調べてみたことなかった!

    じゃぁ今日はそんな二人に妊娠と出産のことをお話しようかなぁ。

    妊娠のしくみ

    「妊娠の仕組みが完璧に働くこと」は貴重であり、ある意味希少といえる。
    女性の卵巣で育った卵子が1か月に1回排卵され、卵管に運ばれる。男性の精巣で作られた元気な精子が、タイミングよく卵子と出会って受精、受精卵が子宮内膜に着床して妊娠が成立する。これら臓器の連携プレーが完璧にはたらかないと妊娠にいたらない。すごいしくみであるともいえる。

    妊娠検査薬が“陽性”になる時はいつ?

    妊娠検査薬は、のちに胎盤になる部分から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンを検知して陽性となる。規則正しく月経がある女性の場合、予定の月経の時期には陽性になることが多い。ただし、異所性妊娠(受精卵が子宮腔以外の場所に着床、生育する状態で、手術等が必要)などの可能性もあるので、市販の検査薬が陽性になったら産婦人科を受診したほうがいいよ。

    妊娠検査薬だけで、診断確定ってわけじゃないんだね。

    たしかにこの時点では、エコー検査をしてもはっきりとした妊娠の兆しが見えないこともあるけれど経過をみたほうが安心だね。そして、やがて児が入る空間(胎嚢)や児自身、そして心拍が確認できるようになり、分娩予定日が決まっていきます。役所にいって妊娠届をして、母子健康手帳をもらうのはこのころだね。

    心拍がしっかりみえてきたら、少し安心できるのかしら。

    そうともいえるね。実は、妊娠した女性の15~20%は流産になるんだよ。そして、その多くは、妊娠11週までの早い時期なんだ。これらは受精卵自体の異常でおこるもので、どのカップルにも起こりうることなんだよ。とはいえ、本人や家族にとってはたいへんなショックと不安につながるので、精神的なケアが重要だし、周囲の心遣いと理解は必要になるだろうね。


    安心安全なマタニティライフのために、知っておきたいこと-妊娠中の身体-

    胎児が成長する約10か月の間、妊婦さんの身体は劇的に変化していく。まだ外見では変化が見えにくい妊娠初期も大切な期間なんだ。

    図1 お腹の中で育つ赤ちゃんの成長サイズ(イメージ)

    お腹のふくらみがわかりづらくても、確実に生命が育まれているんだね。

    妊娠初期には、つわりがあったり、立ちくらみを起こす妊婦さんがたくさんいるよ。そうなると、通勤途中で立っているのは辛いこともあるよね。こういう時は、我慢せずに自分と赤ちゃんの身体を優先して、座ったりしよう。利用できる休憩室がある場合はこれも利用しよう。命はかけがえのないものだからね。

    つわりや立ちくらみ以外にも、妊娠中の身体について男女ともに知っておきたいことを伝えておこう。人によっては言い出せない場合もあるから、当事者以外も知っておくと察することができる。大切な知識だよ。

    つわり、妊娠悪阻(にんしんおそ)とは?

    妊娠と一緒によく聞くワードが“つわり”なんだけど、つわりって実際どういうことなの?

    妊娠に気づくころから、吐き気が出たり食欲不振になるのがつわりだね。通常は、妊娠12~15週頃までには症状は楽になる。さらに、つわりの症状が重くなって、点滴や入院が必要になることを妊娠悪阻というんだ。妊娠初期に急増する女性ホルモンが主たる原因だけど、環境や精神状態によっても重くなったりする。

    なるほど。環境とか気分はひとそれぞれだから、つわりの症状も人それぞれってことだね。

     

    安定期は本当に安定?

     

    妊娠の報告を受けるとき、“安定期に入ったから~”って聞くことがあるけど、この“安定期”は何が“安定”なの?

    一般に、妊娠16週以降から“安定期”といわれているよね。確かに早期流産の時期は越えたし、つわりが落ち着く時期といえる。しかし、安定期は医学用語ではないんだよ。「安定期」になると、遠方への旅行など活動を広げる妊婦さんもいるよね。でも、早産やいろいろな妊娠異常はこのあとにおこってくるし、専門家としては「安定期」という言葉は安易につかってほしくないなぁ。 どの妊娠時期でも母体と胎児の健康には留意しなければいけないんだよ。

     

    早産とは?

     

    あまり耳にしないかもしれないけれど、早産についてもみんな知っておいてほしいな。
    妊娠22週未満の妊娠終了は流産といい、そして妊娠37週未満で分娩になってしまうのが早産だね。そして子宮が収縮して子宮口が開いて早産しそうな状態が切迫早産だ。感染や破水が絡んでいることが多いが、体質的なものも関係する。新生児医療は進歩してきているけれど、なるべく早産は避けたいところだね。切迫早産では、安静や入院が必要になるので、症状に注意して主治医と相談することが必要だね。

    早産になりそうな兆候ってわかるものなの?

     

    妊娠後期になると、正常でも痛みのないお腹(子宮)の張りを感じることがあるんだ。ただし回数が多かったり、痛みを伴うものは異常なので注意が必要。性器出血も要注意ポイントだね。

    妊娠高血圧症候群とは?

     

    友達が妊娠した時に、体重が増えることと一緒に妊娠高血圧についてもお医者さんからお話があったことを話していたんだけど、それってどういうことなの?

    妊娠中の血圧上昇に加えて、さまざまな臓器障害が発生するのが、妊娠高血圧症候群。たいていは分娩後には軽快するけれど、重症化すると母体や胎児に悪影響がある怖い疾患だ。もともと高血圧や腎臓疾患をもっている女性は要注意で、肥満や高齢でもリスクが高くなるよ。

     

    妊婦貧血とは?

     

    それから妊娠すると、循環血漿量が増えるのだが赤血球増加が追いつかないので、血がうすまってたいてい貧血気味になるよ。それと同時に鉄の必要量が通常より増しているので、バランスのよい食生活で上手に補う必要があるね。

     

    バランスよくって、どうバランスよくしたら良いかわからないなぁ。

     

    厚生労働省がWEBサイトで情報発信をしているよ。例えばこれ(厚生労働省 健やかなからだづくりと食生活Book )なんかも参考になる。

     

    出産、そして産後のこと

     

    出産が終了すると、女性の身体では妊娠前の状態に戻ろうとする変化が始まる。 例えば、妊娠中に胎盤が産生している多量の女性ホルモンがあるけれど、出産して胎盤が娩出することで、体内にある女性ホルモンの量が急に減少する。心臓などは産後2週間でもとに戻り、子宮は産後6~8週間でもとにもどっていくよ。母体が出産前の状態へ戻るまでの期間を“産褥期(さんじょくき)”と呼ばれるね。

     

    出産した後の体調回復にかかる期間ってあんまり考えたことなかった。子宮は赤ちゃんがいなくなったから元のサイズに戻ろうとすることは想像できたけど、心臓はイメージできなかったなぁ。そんなに変わるの?

     

    変わるんだよ。妊娠中は自分と赤ちゃんの2人分の血液が必要になるので、心拍出量が増加するんだ。これが1人分に戻るってことだね。

     

    自分の身体に変化が起きない側としては、ほかにも想像できていないことがありそう。

    うん。しょうくんは、自分の身体の変化に加えて、育児や授乳が始まる生活を想像できるかな?

    う~ん・・・

    出産したら、女性は心理的・社会的な変化に適応していかなければならない。
    3割の女性は出産後10日目までに一時的に軽い抑うつ状態である“マタニティブルーズ“を経験する。これは通常自然によくなっていくが、”産後うつ病“など治療が必要なメンタルヘルスの問題もあって、軽視できないことなんだよ。

    生まれたばかりのころは授乳の間隔が短いからあんまり寝られないってことも聞くよ。

     

    授乳のことで言うと、乳腺炎など授乳に関する不安やトラブルがあることもあるね。乳腺炎の原因のひとつに、母乳が乳腺内に溜まってしまう場合があってね。仕事復帰後のタイムスケジュールはどうしても仕事優先となることもあるよね。こういう時は、授乳や搾乳をしたいときにできないことが起きてしまう。できれば母乳は溜まったままにせず、授乳や搾乳で出すことをこころがけてほしいなぁ。そして母乳や授乳に関する悩みがある場合は、助産師さんに相談するといいよ。出産した病院にも助産師さんはいるし、助産院でも母乳相談などの産後ケアを行っているところがある。

    母乳っていつまで出るの?

    離乳食が始まるころ(生後5か月~6か月ごろ)から徐々に授乳を減らしていく(離乳)ことが多く、授乳機会が減ると母乳の分泌も減る傾向にはある。ただ、離乳のタイミングは人それぞれ。よって、母乳が分泌される期間も人それぞれ、ということになるんだ。

    産後この時期になったら分泌が終わる、というような単純なことではないんだね。人の身体ってすごいなぁ。

    妊娠中のマイナートラブルも知っておこう

    病気というほどではないけど、妊婦さんによくある身体の変化をマイナートラブルというよ。たとえば、さっき話した立ちくらみなんかも含まれるね。そのほか、便秘は妊娠初期からおこる。妊娠初期に増えているプロゲステロンの働きで腸の動きが抑制されて、つわりで食べる量が減ることも影響するね。妊娠後期には、大きくなった子宮で腸が圧迫されて便秘になりやすい。

    お腹のなかで赤ちゃんが成長する場所は、腸の近くだものね。他の内臓に影響がないなんていうことはないよね。

    妊娠中期以降には、腹圧性の尿失禁(尿もれ) も珍しくない、破水と区別がつかないこともあるので、不安なときにはかかりつけ医に相談することだね。ふくらはぎのこむらがえりもよく起きるね。そのほかにも、いろいろと個人差もあるので気になる症状があれば、かかりつけにすぐに聞けるようにしておいたら安心だね。

    マイナートラブルだけでも、仕事中には苦労しそうだなあ。

    プレコンセプションケア

     

    ここで、比較的新しい考え方“プレコンセプションケア”について話しておこう。
    コンセプション(Conception)は受胎、つまりおなかの中に新しい命をさずかることだね。そしてプレコンセプションケア(Preconception care)とは、将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活、健康に向き合うことなんだ。対象となるのは思春期の早い時期から生殖可能年生の広い年代の男女だね。食事・栄養やタバコ、アルコール、体格(やせや肥満)、がん予防やこころの健康など幅広い項目にわたっている。

    タバコ、アルコールのCMなんかには、妊娠中はやめましょうって書いてあるよね。

    その通り。喫煙および受動喫煙は、「ヒトの健康、妊娠予後、胎児の成長、小児の成長・健康などにさまざまな悪影響を及ぼす」とされている。カップルでの禁煙が望ましいね。妊娠中の飲酒は、胎児・乳児に対して、低体重や先天異常(知的障害、学習障害など)を起こすことがある。もちろん、過量の飲酒でリスクが高くなるが、「これぐらいまでは大丈夫」というアルコールの安全な量や飲んでも大丈夫な時期はない、という以前よりも厳しい情報を提供するようになっているよ。
    将来のことを今決めなくても、情報として自分の身体のことや気を付けたいことは知っておいて損はない。そしてこれは妊娠する人だけでなくパートナーも同じだよ。国立研究開発法人国立成育医療研究センター プレコンセプションケアセンター に、
    プレコンノートが公開されているから、読んでみるのもおすすめだよ。

    女性労働基準規則

    私の研究は化学物質を扱うから、後輩の妊娠をきっかけに”化学物質取扱の手引”[1]化学物質取扱の手引(2021年度版北海道大学安全衛生本部 北海道大学施設部) の、“女性労働基準規則(P 29)”の項目を読み返したんだ。女性の母性健康管理や母性保護規定について改めて確認したよ。

    <女性労働基準規則>
    労働安全衛生法で妊産婦等の就業制限の業務の範囲が定められている。既に規制対象となっている有機溶剤、特定化学物質、鉛等から特に妊娠や出産・授乳機能に影響があるとされる26種類の化学物質が指定されていて、劣悪な作業環境での女性の就業禁止について定めている。 作業する自分自身でもちゃんと安心・安全を守ることができるように、どのような規則か知っておきたい。
    参考WEBサイト:妊娠・出産をサポートする女性にやさしい職場づくりナビ【特集】専門家コラム 妊娠を希望する女性または妊娠中の女性の化学物質取り扱いの考え方
    化学物質を取り扱う事業主の皆さまへ 女性労働基準規則の一部が改正されます(厚生労働省リーフレット)

    実験室などで働かれているのですか?

    はい、研究・開発の現場にいます。

    化学物質取扱の手引をよく読んでいただいていて嬉しいな、と思って。化学物質を扱っていると、将来、病気になるんじゃないかとか、子どもに影響が出るんじゃないかとか、漠然とした不安を抱える方がいますが、化学物質が身体に入らなければ健康被害は生じません。各種法規制はそのための定めですし、規制のない物質でも同じ考え方で被害が防げます。その辺の考え方は講習会や手引でも紹介していますので、また改めて確認していただけると嬉しいです。

     

    妊娠・出産・子育てと仕事の両立

    安心、安全なマタニティライフを過ごしたり、子育てしながら仕事を続けられるように、国の方針に則り事業者は福利厚生制度の中で休暇制度を定めているよ。一緒に子を育むパートナーが取得できる制度もある。(北海道大学における子育て支援制度のあらまし[2]北海道大学における子育て支援制度のあらまし※詳細や利用については、所属部局の人事・労務管理担当までお問合せください。)

    まっちゃんとぼくの場合は、ぼくが取得できるってことか。

    その通り。どういう風に新しい家族との生活を楽しみながらキャリアも充実していくかの参考になると思うから、今から読んでおいても早すぎることはないと思うよ。

    第4回 プレコンセプション・妊娠・出産と福利厚生制度②へ続く。
    (監修:北海道大学大学院 保健科学研究院 教授 蝦名 康彦)